第5回研究会 2022年3月17日
第5回研究会を開催しました
村田祐介氏を招き「起業家とベンチャーキャピタリストによる産業創造」をテーマに研究会開催
2021年度最後となる第5回戦略的経営者研究会が、2022年3月17日(土)に一橋大学千代田キャンパス大講義室でハイフレックス形式により開催されました。講師は日本を代表するベンチャーキャピタリストの一人である村田祐介氏(インキュベイトファンド株式会社代表パートナー)。「起業家とベンチャーキャピタリストによる産業創造」をテーマに、経営管理プログラム2年(開催当時)の佐藤登志さんの司会のもと、インタラクティブに進められました。
起業家の伴走者としてのVC
村田氏は「VCの歴史と存在意義」「起業家とVCによる経済創造」を柱に講演を展開。「VCが生まれたアメリカでは、VCは“個人”がやるもの。まず個人が自己資金を投じ、出資者から資金を預かってファンドを組成し、無限責任を負って運用する。ところが日本では、株式会社がVCになるという独特のスキームで発展してしまったせいで、真のベンチャーキャピタリストが極めて少ない」と言います。
村田氏によると、世界最初のVCは1946年に、ハーバード大学の元学長ジョルジュ・ドリオが創業し、ディジタル・イクイップメント(DEC)などに設立出資したほか、多くの“弟子”を育成。その一人であるアーサー・ロックが1968年にインテルに出資し、ここからシリコンバレーの歴史にVCが密接に関わっていきます。「半導体が集積化されると、メインフレームの仕組みを壊し、パーソナルコンピューターになる、PCがつながるにはルーターが必要になる、サーバーが生まれる、それによりインターネットに接続できるようになる、そこにはブラウンジング技術が必要になる」。こうした仮説・ストーリーを草創期シリコンバレーのベンチャーキャピタリストや起業家たちが共有しており、「彼らには未来が見えていた。事実、この仮説のキーワードがそれぞれ起業のタネになり、やがてアメリカを代表する巨大IT企業に育っていった」。
村田氏はGAFAなどの例を挙げながら、VCの存在意義が「スタートアップに伴走する」点にあることを説明。例えば、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、シリーズAの出資を募った際、あえて他社よりも引き受け条件の悪いクライナー・パーキンス(KP)のオファーを受諾します。その理由は、KPのパートナーであるジョン・ドーアにチームに加わってほしかったから。実際、出資後にドーアはアマゾンの経営に参画し、組織づくりやビジネス開発に手腕を発揮しました。KPはグーグルにおいてもシリーズAで出資し、ドーアはここでも、エンジニアの組織づくりのための委員会や取締役会を主導しました。「ベンチャーキャピタリストが豊富な実務経験をインプットすることで、ビッグテックたりうる組織・仕組みとして回り続けていく。それこそが、伴走者としてのVCの価値なのです」。
スタートアップが世界経済の新陳代謝を作る
講演の後半は「起業家とVCによる経済創造」がテーマ。村田氏は、「経済の根幹は雇用」だとして、1977〜2010年のアメリカの雇用創出の推移を示すチャートを掲げながら、(1)スタートアップによる新規雇用が常に大企業によるそれを上回っている、(2)景気後退(リセッション)時に大企業が片っ端から人を削る一方で、スタートアップは常に雇用を創出し続けている、という事実を解説。講演の終盤では、世界の主要証券取引所の株式時価総額推移や、地域別のスタートアップの資金調達額の推移を示しつつ、日本の現状に苦言を呈します。「日本の大企業は自前主義にこだわり過ぎているのではないか。日本経済を牽引するグローバル規模のスタートアップをどう作るか。起業家だけではスケールアップできない、ベンチャーキャピタリストとの両輪が必要」と力説して、講演を締めくくりました。
ベンチャーキャピタリストや起業家の資質とは
講演後のQ&Aセッションでは、会場やオンライン参加者からの的を射た質問に促され、本質的な議論が展開されました。例えば、ベンチャーキャピタリストの資質に関する質問に、村田氏は「総合格闘技」だと回答。つまり、ファイナンスに強い人、組織づくりが得意な人、プロダクト・グロースの設計が得意な人など、それぞれ強みがあるものの、共通する資質としては、「起業家をリスペクトする人、起業家の目線を引き上げられる存在であることが重要」と述べました。
一方、起業家の資質については、「やることなすこと、全部自分事にできる強いオーナーシップと先見性、諦めない心が必須条件」だとして、まだ楽天を起業して間もない頃にECビジネスの将来性を確信して、大胆にも「ヤマト運輸を買収したい」と語った三木谷浩史氏を例に挙げました。さらに、インターネットの利用者数が1年で2300%成長したデータを見てジェフ・ベゾスが起業を決意したというエピソードなどに触れ、「いま世の中に起きていることの中に、その人しか知らない“真実”を見つけたら、もうスタートするしかない」と熱を込めて受講者に呼びかけ、大盛況のうちに終了しました。
講演後、司会を務めて下さった佐藤登志さんと
<村田 祐介氏ご経歴>
2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資株式会社)入社。主にネット系スタートアップの投資業務及びファンド組成管理業務に従事。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。2015年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長を兼務。その他ファンドエコシステム委員会委員長やLPリレーション部会部会長等を歴任。Forbes Japan「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキングBEST10)」2017年第1位受賞。
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